ビジネスと人権(BHR)への取り組みは、事業の規模にかかわらず、すべての企業において、「今」始めるべき重要な取り組みです。
BHRは、簡単に言えば、ビジネスにおいても人権の適正な取り扱いを求めるものですが、その取り組むべき範囲は、一般的な人権の取り扱いとは異なる広範囲なものです。
BHRとは何なのか、なぜ「今」なのか、BHRについて基本的なポイントを解説します。
BHRは、企業が事業活動を行う際に人権を尊重し、侵害を防止するための枠組みです。
これは、国連が2011年に策定した「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいています。
日本政府は、企業活動における人権尊重の重要性を認識し、2020年に「『ビジネスと人権』に関する行動計画」を策定しました。
2022年には「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定し、2023年には中小企業向けの「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」を策定しました。
これらの取り組みは、企業が人権を尊重し、経営リスクを軽減し、国際社会からの信頼を高めることを目的としています。
BHRは、自己の従業員や直接の取引先への取り組みだけで達成できるものはなく、サプライチェーン全体で取り組むことが重要かつ必要です。
企業は、自社の活動が人権を侵害しないようにする責任があります。
これには、自社だけでなく、サプライチェーン全体での労働条件の改善や差別の防止が含まれます。
委託先への過度な要求や納期の圧迫などは労働環境が悪化する原因になるとも考えられ、数次にわたる取引おいては取引条件を定めるに当たり、原産国の労働環境についても考慮する必要があります。
BHRに取り組むにあたっては、常にサプライチェーン全体を考える必要があります。
企業は、自社だけでなく、取引先やサプライヤーも含めて人権を尊重し、全体として人権侵害を防ぐことが求められます。
人権侵害が発生すると、企業は法的責任を負うリスクがあります。
また、法的リスクのみならず、企業の信用の低下につながることは避けられないところです。
欧州を中心に、サプライチェーン全体での人権の適正な取り扱いを調査する、人権デューデリジェンス(DD)の義務化が進んでいます。
人権の適正な取り扱いがされていない場合、取引先から契約を解除されるリスクがあり、信用を失います。
サプライチェーン全体での人権DDですので、直接の取引先だけでなく、二次、三次…取引のすべての段階において求められます。
日本経済においては、多くの場合において、サプライチェーンのいずれかの段階で輸入又は輸出がかかわっています。
これは直接国際的な取引を行っていない、日本国内での取引だけの企業であっても、対応しておく必要があることを意味しています。
人権を尊重する企業は、消費者や取引先など多くのステークホルダーから信頼を得やすくなります。
また、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が注目されている現在においては、投資においての評価も高まります。
これにより、企業のイメージが向上し、資金調達がスムーズになるだけでなく、新たなビジネスチャンスも広がる可能性があります。
従業員の人権を尊重することで、働きやすい環境が整い、モチベーションや生産性の向上が見込めます。
BHRは、日本においても国際スタンダードによる適正な取り扱いを要請されることが増えています。
大手企業を中心にBHRへの取り組みが進んできており、サプライチェーン上の中小企業にも、BHRへの取り組みや人権DDを求められる可能性が高まってきています。
BHRへの取り組みは、非常に広範囲での対応が必要なため、取り組みを始めてすぐに目的を達成することが難しいものです。
取引先からの要請に対応することへの必要性が高まってきている中で、事業の継続、経営の安定のためには、少しずつでも取り組みを進めておかなければならないところです。
BHRへの取り組みを自ら積極的に進めることで、企業イメージの向上につながることでのメリットは少なくないでしょう。